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グローバルの健康課題解決のための
「ものづくり革新」

グローバルの健康課題解決のための「ものづくり革新」

高品質の製品を、少しでも低価格でお客様に届けたい。そんな想いで進められてきたオムロン ヘルスケアの「ものづくり革新」。グローバルなコスト競争が激しくなる中、松阪事業所をはじめ世界各地の工場で、生産性向上を目指した徹底的な取り組みが行なわれてきた。

Interviewee
所属は2023年1月時点
伊藤
生産SCM統轄部 購買戦略部

きめ細かな改善を重ねて
日本で高品質な製品を
効率的につくる

きめ細かな改善を重ねて、日本で高品質な製品を効率的につくる

オムロン ヘルスケアでは、1990年代に血圧計の生産拠点を海外に拡大。松阪事業所は、医療向け血圧計など、一部製品の生産を行なうのみだった。時が経ち2010年代になると、メーカーとして日本で「ものづくり力」を復活させたいという想いをもち、松阪での生産に再び取り組むことになった。生産では自動検査装置や自動組み立てラインを導入した改善を行ない、営業ではMade In Japanで市場をつくる取り組みをした。その結果、2013年度の松阪工場の生産台数は約26万台にまで復活した。

手組みと自動化のベストな融合を模索

品質の高い製品を、コストを抑え、お客様にいかに早く届けられるか。オムロン ヘルスケアの製品はグローバルのお客様の多様なニーズに応えるため、「手組み」と呼ばれる作業が主流の生産となっている。生産性改善のために行なったことの1つが、手組みを自動化することだった。手組みは、柔軟な生産が可能だ。しかし、品質を安定させるためには、難しい工程ほど、高度なスキルが必要となる。機械が自動で組み立てを行なえば、常に高品質の製品を安定してつくることが可能になる。省人化によるコスト削減だけでなく、作業者の入れ替わりによる品質の変動リスクの低減もでき、同じ人数で生産数量も増やせる。そういった想いから、自動化を進めていった。

2016 年には、ロボットを活用したフル自動機生産を開始したが、お客様のニーズに柔軟に応えることが課題となった。そのため、次なるステップとして自動化ラインへのチャレンジが始まった。そして、2022年に手組みの柔軟性と自動機の品質が融合したLCIA(Low Cost Intelligent Automation) 自動機での生産ラインを導入。1生産ラインあたり半分から3分の1程度の省人化となり、人と機械のベストマッチングを実現した。

この生産ラインは、2022年に松阪事業所で実現されている。また、中国、ベトナム、イタリア、ブラジルの各工場でも、工程ごとに自動化が進んでおり、生産性が改善している。伊藤は、「将来的には松阪の生産ライン技術をパッケージ化して海外の工場にも展開し、世界各地で同じように高い生産性を実現する計画です」と、今後の展望を話す。

モジュール化により進んだ自動化

自動化の実現に大きく貢献したのが、2012年から進められてきた電子部品の標準化(モジュール化)だ。従来、血圧計に使用する部品や基板などは、機種ごとにすべて異なっていた。しかし、これらの部品を機種間で可能な限り共通化し、自動機を使って実装できるようにした。まずはこのモジュールを、ロボットが成形品にはめ込み、血圧計の基本的な機能の部分をつくる。そして、機種ごとに異なる部分を組み上げるという工程だ。

モジュール化によって、部品点数の削減に成功。多様な部品在庫を抱える必要がなくなったほか、ネジ締めやハンダ付けといった作業が減り、作業の効率化を実現した。「モジュール化ができていなかったら、自動化を進めるのは難しかったでしょう。モジュールは、どの国でも共通なので、全世界で安定した品質で、かつコストを抑えることができています。こうした改善の取り組みが結実して、製品の競争力が高まりました」と伊藤は分析する。

現場で作業をするのは「人」だから、納得してもらえることが大切

しかしながら、モジュール化や自動化は、あくまでものづくり改善の「ツール」だ。実際の改善は、工場で働くスタッフの協力があってはじめて成り立つ。現場のスタッフにとって、改善とは慣れ親しんだ作業が変更されることを意味する。そのため、抵抗を感じる人も少なからず存在する。「自動化にともなって、自動機のメンテナンスや不具合対応など新たな作業も発生します。現場作業者に納得してもらうことが重要でした」と伊藤。伊藤自身、工場に出向いて改善の内容を説明したこともあった。

現場の理解を得ながら改善を進めた結果、生産ラインが効率化され、作業がスムーズになっていった。「組み立てに要する時間の短縮や、1日の生産台数の増加など、数字として改善の効果が見えると、現場のスタッフも喜びます。『効果を実感できた』という声が現場から聞けた時はうれしかったですね」と伊藤。生産効率は利益率に直結する重要な指標だ。「生産性の改善が、自社の経営に直結するのだという社員の意識が高いことも取り組みのモチベーションになりました」

市場の需要を把握して
お客様に必要な製品を届ける

市場の需要を把握してお客様に必要な製品を届ける

生産性の改善から、お客様が製品を欲しい時にすぐ届けられるようになった。そして、必要な時に必要な「数」をつくることにも取り組んだ。ものづくりにおける改革は、部品の調達や製品をつくる過程だけでなく、できあがった製品をお客様のもとに届ける過程でも取り組まれている。

世界の市場を可視化して、リアルタイムに把握

届ける過程でのもっとも大きな改善は、MTA(Make to Availability:後補充生産)の導入だ。従来は、「これだけ売れるだろう」という人間の予測をもとに生産計画を立て、生産数量を決めていた。しかし、人間の予測が介入することで、安全在庫を意識しすぎて余剰在庫につながったり、一方では売れている製品の在庫が不足したりすることもあった。

そこで、2021年以降、市場の需要をリアルタイムに把握し、生産計画とダイレクトに連携させることで、売れた分だけ生産して補充するMTAのシステムを構築。余剰在庫や在庫切れが発生しにくくなった。現在では、このシステムによって全世界での売れ行きが可視化されており、生産計画も自動作成されるようになっている。また、将来的には自社内だけでなく、材料を生産してくれるサプライヤやメーカーにも、MTAをもとに在庫調整をしてもらうことで、安定した材料の確保や過剰在庫の回避を目指していく。

このしくみは、コロナ禍など不安定な世界情勢による部品不足の時に、特に活躍し、生産量を最適化する際の重要な要素となった。伊藤は、「市場の状況が可視化されていたことで、限られた部品をどの工場にどれだけ配分すると最適なものづくりを行なえるか、判断することができました。従来のような‟だろう“に基づいた感覚的な需要予測では、どこでどの部品が必要になるのかを把握できず、対応が難しいことがありました」と話す。

現場が改善に対応できる力を付けていた

MTAの導入にともなって、さらに生産現場の改善が必要になった。リアルタイムで得た情報に基づいて、すぐに必要となる製品をすぐに生産できるフレキシブルな生産体制を整えた。生産ラインの自動化やモジュール化が進んでいたため、このような柔軟性が求められる改善にも対応することができた。「現場スタッフの改善スキルが高まったのも大きかったですね。今までの生産性改善の取り組みがあったからこそ、サプライチェーンの改善もうまくいったのだと思います」と伊藤はふり返る。

良い製品をつくり続けるために、未来を見据えた環境負荷低減

未来に目を向けた取り組みも行なわれている。オムロン ヘルスケアは、2022年に「国際イニシアチブEP100」に加盟し、「2040年までに1Gwhあたりの売上高比率を、グローバルで2016年比200%にする」という目標を宣言した。松阪事業所では、エネルギー消費量を減らしながら生産量を増やす「エネルギー生産性向上」の取り組みを進めている。

*“100% Energy Productivity” の略称、事業のエネルギー効率(Energy Productivity)を倍増させることを意味する
エネルギー消費量を減らしながら生産数量を増やす、妥協なき取り組み

オムロン ヘルスケアでは、2030年工場・オフィスのGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)排出量を、2016年比で65%削減することにも取り組んでいる。現在、松阪事業所で、環境負荷低減を進めるためのプロジェクトが立ち上がっている。一般的に生産台数を増やすと、それに比例してエネルギー消費量も増えてしまう。そこで、単なる省エネではなく、作業時間や生産ラインのスペース、輸送距離や在庫量など、「時間」「空間」「距離」「在庫」をすべて半分にすることで、エネルギー生産性の向上を目指す。

例えば、生産ラインや事業スペースのエネルギー消費量や生産量をリアルタイムで可視化。可視化されたデータを解析して、電力利用の最適化を行なうことで、エネルギー消費量を減らしている。

また、「地産地消」の取り組みも進めている。部品を海外で調達すると、日本に輸送するために大きなエネルギーを消費する。そこで、部品調達先の国内切り替えを進めている。その結果、輸送距離を短縮するだけでなく、輸送用梱包材の削減にもつながっている。「新たなサプライヤに協力いただくためにも、安定して売れ続ける製品を開発し、生産数量を増やさなければなりません。既に効率化が進んだ生産現場で、さらに効率化を推し進めるのは、決して簡単なことではありませんし、現場もそれはわかっているでしょう。未来のためにも、さらに生産性改善を目指す必要があります」と伊藤。自動機の電力消費を抑える工夫や、徹底した生産性改善など、まだまだできることはある。さらに、ソーラーパネルを工場近郊の土地に設置し、エネルギーをつくる取り組みも進めている。

松阪事業所ソーラーパネルのパース写真(予定)
松阪事業所の外観
常に改善し続けることが、世界中に健康を届ける企業の使命

品質の高い製品をつくり、お客様が必要な時にお届けするためのものづくり続けてきたオムロン ヘルスケア。オムロン ヘルスケアのものづくりの強みとは、どのような点にあるのだろうか。伊藤に尋ねると、「常に妥協しないところ」という答えが返ってきた。コストを削減しながらも、品質を維持し続け、生産数量を少しでも増やそうとする。その取り組みを止めないように、常にチャレンジを続けているところが強みだという。

「改善のサイクルは、時代と環境の変化に対応しながら常に回し続けなければなりません。より良い製品をグローバルのお客様のもとに届け続けるためにも、手を止めることなくストイックに改善し続けていきます。それが世界中の一人ひとりのすこやかな生活に貢献する企業の使命だと思います」と伊藤。ものづくりの改善に終わりはない。未来に向けて、妥協なき革新が続いていく。

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